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№56 中小企業憲章 その3

 2003年5月,中小企業家同友会全国協議会では中小企業憲章制定運動が提起され,以来地道な運動が展開している。中小企業憲章ハンドブックを発行し,学習シートが作られ,さらにプロモーションスライドなどの材料が作成されている。全国各地では憲章の精神を実現し,しようとする実践例が紹介され,中小企業振興基本条例が制定運動も展開されている。

 中小企業憲章というとき,中小企業基本法との違いはどこにあるのかということになる。それは①基本法などの法律は政策の基本を示す前文のようなものがない,②中小企業庁の省への昇格など組織に関わる問題は基本法では網羅できない,③中小企業基本法及び中小企業に関連する経済関係法の解釈基準を示す必要があるため,基本法では捕捉できないということにあるという。中小企業憲章ガイドブックによるとこのほかにも2つほど記載されているが,基本的には解釈基準を示すという内容以上にはないように思われる。

 しかし,そもそも「基本法」の意味は,中小企業に関連する法規の制定根拠,解釈基準,を示すもので,基本法に重ねて法的拘束力がある憲章が必要であるというのには理由がないように思う。我が国には,環境基本法林業基本法,農業基本法教育基本法などたくさんの基本法が存在する。どれも,特定分野の政策を体系的に実施していくためのもので中小基本法もその一つだ。政策の基本を示す前文のようなものについても,第1条の目的中に網羅しても良いし,イレギュラーだが基本法の中に前文のようなものを入れても問題はないように思う。おそらく,同友会のイメージは憲法と法律の中間的な法律,世界人権宣言のような拡張の高い思想の宣言を含めた規範を作り上げるということではないか。そうであれば,そのように中小企業基本にもりこめばてっとりばやいとう気がする。

 中小企業憲章は欧州小企業憲章に触発されたものである。グローバリゼーションの教科書のような欧州統合の過程で,大企業中心の経済に限界があり中小企業の公共性が見直しれたこと,大企業中心の競争原理の中で小企業が押しつぶされない制度作りを行うものとして欧州小企業憲章は制定された。小企業憲章は前文,原則,施策と分かれ「国家戦略文書」となっている。我が国にも国家戦略と題する文書は存在する。それは基本法に基づいて国家の総合的な戦略を具体的な実行段階まで射程に入れて作成したものだ。EUでは小企業憲章の法制化を課題に戦っている。

 要するに中小企業憲章は重要な運動だが,法体系内での位置づけがあいまいであって,正確につめていく必要があるように思われる。