名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

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№50 中小企業憲章

 このブログの記事も50回となった。週5本のペースを続けるというのはかなり大変だ。
 この節目では中小企業憲章について考えてみたい。
 中小企業憲章は欧州小企業憲章の"think small first"に触発されて中小企業家同友会が提唱している考え方である。社会経済政策全般を推進するにあたって中小企業を第1に考えて立案,実行せよと言うものだ。もちろん世の中には第1に考えなければならないものはたくさんある。障害者など社会的弱者を第1に考えよ,女性の問題を第1に考えよ,環境問題を第1に考えよ,労働者の権利を第1に考えよという具合に考えるべき問題はたくさんある。どれもこれも第1なのであるが,この「第1に考えよ」には「個人の尊厳」というが共通項がある。日本国憲法の中核をなす価値観は「個人の尊厳」だ。一人一人が自由に生き,国家や社会は個人の自由を第1に扱わなければならない。具体的にいるその人が大切にされる社会が必要だというのが日本国憲法の考えだ。この日本国憲法の価値観はフランス革命以来の「人類普遍の原理」であり,近時は国際秩序の重要な考え方となりつつある。
 経済社会は大企業だけでなく,中小企業を含めた多様な事業体でできあがっている。日本国憲法下にあっては経済社会に対する政策の第1は「個人の尊厳」だ。人の生活が満たされるためには個人の経済が保障されなければならないし,個人の日常生活の諸要求が満たされなければならない。世界は個人の生活に影響を及ぼすが,人が生きていく上でまず大切にされなければならないのは個人の生活,家族の生活,地域社会とのかかわりというスケールだ。そこのところで人の幸福が満たされなければ,いくら大きなことが正しくても個人が大切にされたとは言わない。人は普段は大地に立って,歩いて生活しているのだ。そのようなスケールがまず第1なのだと思う。経済社会の分野でこの第1を担っているのが中小企業だ。
 戦後の民主主義運動は「大衆」という用語よく使われた。最近は「市民」という言葉が使われる。それは社会が一人一人の個人を意識するという意味であるし,一人一人が自分で判断して自分で人生を選択していくという人間像を意味する言葉である。憲法は国民を大切にされるという受け身の立場ばかりでなく,自分で自分を大切せよと考えている。そうした能動的人間像が憲法の考え方だ。中小企業者はリスクを背負いながら,自己を実現する存在である。理想的中小企業家像は現場の情報を直ちにくみ上げ,行動していく。そこに創造性も生まれていく。自分の考えで社会に働きかけていき,社会全体を豊かにする存在が理想的中小企業家ということになるだろう。"think small first"は市民社会の展開にも重要な意味を持つ。