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№45 赤福事件の教訓 その7(行政の役割)

 赤福は複雑な食品加工行政の犠牲者であるという意見もあるようだ。中日新聞の報道によると, 三重県伊勢保健所には1995年に食品衛生法に基づく商品表示が「製造年月日」から「期限表示」に切り替わった際、赤福より「製造してすぐに出荷するものと、冷凍した後に出荷する2工程があるが、冷凍の場合はいつの日を(製造の)基準日としたらよいか」といった内容の問い合わせがあり,同保健所は「食品衛生法上は解凍日が基準になるのではないか」と答えたという。その後,赤福事件が社会問題になるに及んで,三重県食品衛生法に基づき無期限の営業停止処分というきわめて重い処分を行った。食品衛生法JAS法,不正競争防止法など表示に関連した法律はいくつかあり,担当する役所も違う。これでは食品業者は何を信じて良いか分からないというのだ。
 コンプライアンスにおける行政の役割については,事前チェック型から事後チェック型に近年考えが大きく変化してきたという。規制緩和の流れがあり,事前に細かくチェックすることは自由な経済活動を阻害する,そのかわり厳しく事後にチェックし,違反者には競争社会から退場してもらうという考え方である。実際,独占禁止法などを見ると処分件数が増えているようだ。自由競争を強化する流れからすればこのような流れは止む得ないかもしれない。厳しい処分が待っているとなれば企業はいやがおうでも自己規律を徹底し,不正は減るかもしれない。
 しかし,事後チェック強化というのであれば,あらかじめ何がやってよいか,何はやってよくないか事前に知っておかなければ疑わしきは実行せずということになり,企業を萎縮させ,かえって自由な経済活動を阻害することになるだろう。事後チェックを重視するなら行政の「見える化」不可避である。こうした事情は企業の外部環境に属することであり,一企業の努力ではいかんともしがたい。大企業ならば顧問弁護士がおり,内部の法務部もあり,事後のチェックを想定した対策が可能なのかもしれない。しかし,中小企業の場合はそう単純ではない。こうした外部環境の問題点,それをどのように変えたらよいのか,赤福事件は提起しているのである。