名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№12 たとえば湯布院,たとえばトマム

 「中小企業政策」(黒岩直宏:日本経済評論社)に「双方向型の施策」が書かれている。少し長いが引用すると
 「行政が中小企業の進むべき方向を示し,それに従う中小企業に経済的フェーバーを与えるという時代は終わった。政策は中小企業の草の根レベルの動きから発展的な芽を発見し,それに沿って支援することが必要となっている。行政が中小企業に方向性を示すのではなく,中小企業から発生した情報に行政が反応する。こういう双方向を形成しなくてはならない」。
 中小企業は自由な競争の中で発展する存在となってこそ価値があるとすれば,この考えは非常に重要だ。どこかから考えを直輸入してそれを押しつける政策は成功しない。
 かつて,リゾート法(総合保養地域整備法)ができ,日本列島は空前の開発ブームとなった。全国のあらゆる都道府県にリゾート計画ができゴルフ場やテーマパークを中心とした「公園」が計画され,できあがり,つぶれていった。ふるさとの山河は荒らされ,深刻な地域破壊が起こったのである。そんな中,我々は上からのリゾート開発ではなく,草の根からのリゾート開発を内発型リゾートと名付け研究し,提言してきた。地元にある素材を地元の人々がよいと思う経営努力によって徐々に発展させ,身の丈にあった地域作りを行うというのが内発型リゾートの考えである。
 その差は大分県「湯布院」,北海道「トマム」とで歴然とする。湯布院は別府のそばにあって,目立たない存在だったが地元の中小事業者を中心にまちづくり運動が展開し,徐々に整備されていった。草の根のまちづくりはまちに人のぬくもりがあり,それだけ人を引きつける。人が愛情をもってまちを作るとまちは美しくなりさらに人を引きつける。よい循環が湯布院には生まれた。一方,トマムリゾートは大手資本が「タワー」と称する巨大ホテルを建設し,大型スキー場を開発した。当時の占冠(シムカップ)村行政はトマムに合わせてまちの色を変えるよう指示し,下水道,廃棄物など町行政はトマムに合わせて作り上げられていった。しかし,バブル崩壊と共にトマムリゾートの夢は終わり,荒廃が残った。アルファトマム倒産後、施設を町がが買い取り、徐々に内発型リゾートに向かっている。自由を尊重しないところに未来はないという典型的な例を作ったのである。